瞬発力、パワーアップ
■ハイパワー、ミドルパワー、ローパワー
(図1)
(図1)

 パワーを、発揮される強度と時間で分類すると、ハイパワー、ミドルパワー、ローパワーの3つに分類される(図1参照)。

ハイパワー
いわゆる瞬発力であり、強い力を生むが長続きしない。その持続時間は、速筋中のエネルギーの本体であるATP(アデノシン3リン酸)とクレアチンリン酸の量 によって決まり(ATP-CP系)、おおむね8秒弱である。

ミドルパワー
糖質(グリコーゲン)を無酸素的に分解して得られるパワーであり、乳酸が筋中に蓄積するため苦しく(乳酸系)、その持続時間は30秒から2分程度である(陸上競技の400mから800mを想像して欲しい)。

ローパワー
いわゆる持久力であり、糖質と脂肪を酸化して得られる(酸化系)パワーである。

 さて、野球など瞬発力の必要なスポーツは、本来ハイパワーの競技と言える。高校野球では練習時間が長いし、甲子園大会で連投しているピッチャーを観ていると、むしろ持久系のローパワー競技かとも思えるが、本来はハイパワーを積み重ねるものであり、ピッチャーなど、ポジションによってはミドルパワーやローパワーも必要とする競技であろう。1試合完投すると、ピッチャーの肩や腕の筋グリコーゲンは枯渇状態になっているほどである。このようなパワーを獲得するには、トレーニングと栄養による筋肉づくりとエネルギー充填、骨づくり、結合組織づくりが重要である。食事面 での工夫はもちろん、スポーツフーズでも、これをサポートするものがいくつかあるので紹介しよう。

■パワーアップをめざすプロテインの選びかた

 筋肉づくりでまず思い浮かぶのはプロテインパウダーだろうか。プロテインはタンパク質の英語名であり、ギリシャ語のプロテウス「最も重要なもの」が語源である。水を除くと、筋肉の80%はタンパク質からできているので、トレーニングで筋肉のタンパク合成を刺激したら、材料となるタンパク質を十分に摂取しなければ、回復さえままならない。そこで、タンパク質のみを摂取できるサプリメントとして、プロテインパウダーが1940年代後半からアメリカで発売された。材料は、牛乳のカゼインと大豆が一般 的であるが、近年は牛乳のホエイが急速に人気を集めている。

プロテインの栄養価
 プロテインの栄養価は必須アミノ酸のバランスで決まるが、例えば大豆タンパクにはメチオニンが少ないので、プロテインパウダーとして製造するときにはメチオニンを添加し、栄養価は他と比べて遜色ないようにしている。だから、現在は栄養価の低いプロテインパウダーはほとんど見当たらない。ただ、ホエイは最も「生物価」が高く、筋肉内に取り込まれて保持される時間が長い。そこで、数年前から欧米でブームになり、日本にも昨年からホエイブームが起こっている。

大豆タンパクと乳タンパク
 大豆タンパクは、日本のプロテインの草分けであり、過去のトップ選手はほとんどが大豆タンパクで身体づくりを行ってきたが、風味が「きな粉」のようであり、このところ牛乳タンパクのマイルドな風味に押されていた感がある。大豆タンパクには、コレステロールを低下させる働きがあり、健康には良いイメージがあるものの、スポーツ選手の大豆タンパク離れが起きていたのも事実である。しかし近年、甲状腺刺激ホルモンを活性化させ、チロキシンの分泌を促すことにより、脂肪分解作用を持つことが明らかになり、アメリカではボディビルダーが減量 用に使い始めている。

■アミノ酸と糖質

 さて、筋肉づくりの近道はトレーニング量を高めることであるが、強度の高いトレーニングは、第一に筋肉を分解し、分解物であるアミノ酸をエネルギーとして燃やしてしまう。もったいないことである。第2に疲労を蓄積するので、次のトレーニングまでに疲労を取り除かないと、効率的なトレーニングができないし、これを続けていればオーバートレーニングになってしまう。

運動前には、まず糖質を摂取しよう

 そこで、筋肉の分解とエネルギー化を少しでも食い止めるため、強度の高い運動の前には、まず糖質を摂取しておく。血液中のグルコース(血糖)を一定レベルに維持しておかないと、脳のエネルギーをつくるため、筋肉の分解が起きてしまう。糖質の摂取は、最も大事なことである。

トレーニング直前には、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取しよう

(図2)

 次に、トレーニングの直前には、分岐鎖アミノ酸(BCAA)のタブレットを摂取する。BCAAは、筋肉で代謝されるアミノ酸であり、トレーニング前に摂取しておくと、運動中に筋肉に取り込まれ、BCAAがエネルギー化することによって、筋肉の分解を防ぐ働きをする(図2)。

運動後は、糖質とタンパク質を速やかに摂取しよう

 そして運動後は、消費したグリコーゲンの回復のための糖質と、筋肉の材料であるタンパク質を速やかに摂取する。運動直後は良いタイミングなので、プロテイン15〜30グラムを牛乳、ヨーグルトドリンク、100%オレンジジュース、デキストリンドリンク(グリコーゲン回復用)200〜300ミリリットルに溶かして飲むと良い。
 さらに疲労が残る場合は、肝臓の負担も考慮して、総合型アミノ酸タブレットを運動後と就寝前に摂取することをお勧めする。

■骨づくりと結合組織づくり

 筋肉ばかりが強くなっても、それを支える骨や腱、靭帯が強くなければバランスが悪く、ケガにもつながりかねない。そこで、まず骨の骨格部分と結合組織をつくるコラーゲンの摂取、コラーゲンの綱目構造をつくるビタミンC、さらに骨を強くするカルシウム、マグネシウムの摂取が重要である。昔から人間は、強くしたい部位 があると、動物のその部位を食べてきた。骨は小魚から、結合組織は魚のなべ物や煮こごりに多いゼラチンを食べれば良いのであって、魚をバリバリ食べる海辺の人ほど骨格が逞しかったようである。昔の関取も沿岸地域出身者が多かったそうなので、なるほどとうなずける。現在は、コラーゲンもミネラルもビタミンもサプリメントで摂取できるので、便利になった。

 しかし、こう書いてくると、全部のサプリメントを購入すると金額的にもばかにならない。そこで、目的とレベルによってメリハリをつけると良いだろう。例えば、基本はプロテインとする。これを1日に2〜3回飲み、タンパク質の補給を十分にしておく。金銭的に余裕のない人はここまでにする。上級者は、トレーニング前にBCAA、トレーニング後にマルチビタミン・ミネラルを摂取する。もし、関節などに痛みがある場合は、コラーゲンタブを1日2回に分けて摂取する。以上はトレーニング期。

 試合期は、ビタミンと糖質の摂取を心がけるが、瞬発系の選手はクレアチンを試してみるのも艮い。クレアチンは摂取方法にコツがあるが、目標とする試合に合わせ、計画的に栄養を摂取することによって、より確実に目標を達成することができるだろう。
 ただし、基本的な食事をおろそかにしていては意味がない。特別な事情がない限り、サプリメントのみに依存するのは一流の取るべき態度ではないことも付け加えておきたい。